20.命をかけて守る覚悟

小説
主要な登場人物
レイト 
 雷を操れる少年
ルアル 
 魔法を使う魔術師の少女

リモク村の登場人物
ルシィ 
 リモク村の宿屋を営む女性。
スバン
 ルシィのお父さん。
ニンバス 
 リモク村の木こりをやっている男性。
 実はルシィの幼馴染

魔物
ゴブリン
 基本はレイトと同じくらいの小さい魔物。しかし力はものすごく強く、ただの大人でも引けを取らない。大きいサイズもおり、そちらは力があまりにも強く成人男性が立ち向かっても、すぐにやられる。

大きな魔物
 大きなゴブリンよりもはるかに大きい3メートルはある魔物。
見た目もゴブリンとは全く違う。お腹は大きく丸く、その中央には大きな口がついている。またお腹の上には小さい顔がある。手は太く地面につくまで長い。大きなゴブリンを片手で握り潰すことまでできてしまう。

前回のあらすじ
 ルアルとルシィは出口に向けて歩き続けていたが、一匹のゴブリンと遭遇してしまう。魔力が底をつき始めていたルアルにとって、絶望的な状況の中、最後の魔力を右手に込め、その一撃をゴブリンへと叩き込んだ!

ゴブリンは倒れ込んだまま起き上がらない。
たが、ルアルも倒れたまま起き上がることはなかった。

「ルアルちゃん、大丈夫…?」

ルアルが放っていた魔法の光が徐々に弱くなっていく。
それはまるでルアルの命を灯火が消えるかのようだった。

あたりが暗くなる。
その前に、ルシィは重い体を引きずってルアルの元へ行く。

するとルシィはルアルの体を起こして膝の上に運んだ。

「起きて…」

そう言っても以前ルアルは目をつぶっている。
それを見たルシィは涙が溢れ出した。

「私のために…なんで……」

ルシィは心の中で後悔した。

こんなことになるなら私はゴブリンたちに殺されてしまえばよかったのに…と。

「ごめんなさい‥ごめんなさい…私のせいで……」

謝ることしかできない。
申し訳なさで涙と言葉が溢れてしまう。

ルシィの溢れた涙は頬を伝って、ルアルの頬へこぼれ落ちる。

その涙に気づいたのかルアルは、少しずつ目を開けた。

ルシィは、それを見て叫んだ。

「ルアルちゃん!!」

「……ルシィ…さん…?」

弱々しく答えるルアルの手をルシィは握った。
そうしてすぐさま謝った。

「ごめんなさい。私のせいで…!!こんな目になってしまって!!」

激しく動揺しているルシィ。
それをなだめるかのように、ルアルは口を開いた。

「謝らないでください…」

弱々しく答える少女は、ルシィの頬の涙を手で掬い上げるように撫でた。

「ニンバスさんも…レイトも……みんな…ルシィさんを助けたくて……ここまで……きたんです…」

ルシィの涙を拭ったルアルは、彼女を見て答えた。

「だから…謝らないで……ありがとうを…伝えてください……」

ルアルは弱々しいながらも微笑みのような優しい笑顔を浮かべていた。

それを見たルシィは、一言、涙を溢れさせながら言う。

「…うん…わかったわ」

そう伝えて、無理矢理でも笑って見せた。
ルアルはそれを見て心が落ち着くと、目をゆっくり閉じた。

ルアルの魔力を使い切ったせいか、魔法の光は小さくなっていた。

すぐ先の暗闇が迫ってくる。

その時近くで物音が聞こえた。

ルシィはルアルを膝の上に寝かせた後、何かが立っているのが見える。

「ゲフーゲフー」

ゴブリンがそこにいた。

ルアルに突き飛ばされたゴブリンは怒りに狂ったように息を荒げていた。

ルシィはどうすることもできない。

ただルアルを抱くように守ることしか。

「ありがとうね…ルアルちゃん…」

自身の膝のほうへ体を折り曲げ、その中でルアルを抱き寄せて目をつぶる。

ゴブリンは、声を荒げながら棍棒を振り上げる。

ルシィは、少しでもルアルを守ろうとしている。

みんなが自分を命がけで、守ろうとしたように自分も命をかけて守る覚悟を決めた。

それが無意味でも、ルアルが最後まで諦めなかったように、ルシィも最後まで抵抗することにした。

棍棒が振り下ろされる。

それはまるで罪人が処刑されるかのように無慈悲に。

ルシィは恐怖する。それでもルアルのことを抱きしめ続けた。

目をぎゅっと閉じ、全身の力を込める。

「グヒッ!」

ルシィは少しの間、力込めて待っていたが、棍棒は振り落とされることがなかった。

むしろゴブリンはうめくように鳴き声を上げる。

(……え…)

ルシィは、目を開けて恐る恐るゴブリンの方を見上げる。

そこには心臓付近から刃が突き上げられ、後ろから赤い光に照らされたゴブリンの姿があった。

「ゲフッゲフッ」

苦しそうに鳴くゴブリンは、そのまま剣を引き抜きながら、左の方へと倒される。

そこに立っていた男の姿を見てルシィは驚いた。

「お父さん!!」

そうそこに立っていたのはスバンだった。

「ルシィ!生きていたのか!!」

スバンは、自身の剣を腰にある鞘に戻すと、すぐさまルシィの元へと駆けつける。

だが、同時に倒れているルアルを見て驚いた。

「なぜこの少女がここにいるんだ!?」

スバンにとって、もうこの村から去ったと思っていたが、まさか洞窟にいるとは思いもよらなかった。

「この子たちが、私を助けにきてくれたの」

「なに…ならもう1人のあの少年も来ているのか」

ルアルは、あの少年と言われて察した。

「ええ…レイトくんは、ニンバスと共に奥にいる…また別の大きな化け物と戦っている」

するとスバンは目を丸くして驚いた。

「なんだと!?」

その後に続けて話す。

「奥にはまだ別の化け物がいて、それにあの少年とニンバスも!?」

いろいろと起きている状況を理解できずにいた。

「ニンバスの姿が見当たらないと思っていたが、まさか先に行っているとは…」

スバンは思い詰めた顔をしている。
この後どうしようか迷っているようだ。

そんな中でルシィは言う。

「早くルアルちゃんをここから出して上げて!」

そう言われるとスバンはハッとして、ルシィとルアルを見る。
倒れているルアルはどうやら息はあるようだが目をつぶっている。
かなり衰弱しているようだ。

すぐさま連れ出さなければと思うスバンだが、助けるためには不安があった。

「ダメだ…1人ならともかく2人となると安全に救える保証はない…」

そう険しい顔で答えるスバンは続けた。

「洞窟の外でも多くの化け物がいて…今村人たちが集まって戦っている。」

「そんな…」

ルシィはがっかりしたように呟いた。

「俺もルシィを助けるために、隙を見て洞窟内に潜ってきたが、まさかルシィ以外の子もいるとは…」

厳しいと言わんばかりに答えた。
そんな中でルシィは決心をする。

「じゃあまずルアルちゃんを外に出して上げて」

それを聞いたスバンは躊躇してしまう。
自分の大事な娘を今すぐに救いたいと言う気持ちがあったからだ。

そんな迷いのある中で、ルシィは語りかけた。

「お父さん…この子たちやニンバスがいなければ、私はもう亡くなっていた」

そう続けて、ルシィはスバンの顔を見る。

「お客さんのこの子達が、この村のために命を張ってくれたのよ…だから救って上げて」

そう言われたスバンは目を瞑った後、冷静になって決心した。

「わかった…!ならまず先にその少女を救おう!」

ルシィは頷いた。
膝下に倒れているルアルをスバンは、背負うためにかがみ込む。

すると。

先ほど倒したゴブリンが起き上がった。

「ゲフ!!」

それを見て、スバンは驚いた。

「なに!?」

ゴブリンは、両手でスバンのことを叩きつけようと襲う。

かがんでいたスバンは両手を上げて、なんとかゴブリンの腕を掴むことに成功する。

だが、とてつもない力に全身が力ばむ。

「ぐっ…!なんて力だ…」

スバンの半分ほどの身長だが、大の大人の倍の力があることに驚く。

耐えるのでもやっとの中、スバンは隣にいるルシィに言う。

「その子を連れて壁際まで行くだ!!」

少しでも危険な場から遠ざかさせるため叫ぶと、ルシィは頷いた。

ルシィは、座り込んだままルアルの脇に手を通して、そのまま引きずりながら壁際まで這う。

硬くざらざらした地面が足の皮膚に突き刺さる。

軽い痛みに襲われるも、耐えながら、壁際まで移動する。

スバンは、ルシィたちを横目に真正面にいるゴブリンの手を握っていた。

「ゲフ!ゲフ!!」

声を荒げながら、今すぐにでもスバンを殺してやろうと必死だ。

両手を握っていたが、ゴブリンのほうからスバンの手を振り解くように手を動かす。

すると、スバンはその力に耐えきれず、手を離してしまう。

「ぐっ…」

ゴブリンは、両手が空くと一旦後ろに下がった。

それと同時にスバンもすかさず、立ち上がると腰から剣を取り出して構えた。

ゴブリンとスバンが対峙する。

スバンが先ほど突き刺した傷から血は流れていない。

「もう傷が治っているのか…」

声を荒げながら怒りで興奮しているゴブリンを見て、なんと言う生命力だ…と言わんばかりに絶望する。

それとは対照的にスバンの体は、昨日の傷がズキズキと痛み始めていた。

スバンは苦虫を噛み潰したような顔をするも、壁際まで移動したルシィたちを見て強く決心する。

「絶対に守ってみせるぞ」

そう言ってゴブリンに立ちはだかる。

ルシィは不安の中、父親の背中を見て祈るしかできなかった。

この場を制するためには、もはや命を投げ捨てるしかない。

そう思ったスバンは自身が握った剣と共にゴブリンへと大きく一歩踏み込んだ。


2週続けて、投稿できました。
もうそろ魔物退治編は、ラストパートになるので最後までお付き合いください。

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