26.レイトとニンバスの握手

小説
主要な登場人物
レイト 
 雷を操れる少年
 じいちゃんの言いつけで王都へと旅立つ
 また正義に生きることを目指している。
ルアル 
 魔法を使う魔術師の少女
 レイトとは旅の途中出会い、
 一緒に王都を目指す。

リモク村の登場人物
ルシィ 
 リモク村の宿屋を営む女性。
スバン
 ルシィのお父さん。傷だらけで登場
ニンバス 
 リモク村の木こりをやっている若い青年。
 実はルシィの幼馴染

前回のあらすじ
 レイトが完全に復活!スバンとルシィとルアルに出会い、全員が元気なことにレイトは安堵する。そして村の手伝いをするためニンバスの元へ行くことに!

日が真上に上がり日中の太陽に照らされながら、ニンバスは、自分の家に併設された薪割りの台で立っていた。

台には薪を置いてあり、唯一動かせる左腕で斧を持つと、それを天高く振り上げた。

そして薪へ一直線へ、振り落とす。

斧は薪をかすめて、台へと突き刺さる。

「くっ…うまくいかないな」

そう言いながら、重い斧を引き抜いた。

「ふぅ…」

一息つくと、近くにある木製の椅子に座り込んで、空を見た。

「やっぱり、難しいなぁ」

右腕が使えないのなら、左手で薪を割ろうとしたがうまくいかない。
右利きなのでしょうがないとは言え、力をつけるために左手も器用にするべきだと思っていた。

「魔物は、もっと強い力だったよな」

魔物と対峙した時を思い出す。
今となっては2日前のことだが、今でも大きなゴブリンに殴られた時の衝撃は覚えていた。

あの時の恐怖を思い出すたびに、殴られた胸が痛み始める。

「また現れた時に戦えるように…鍛えなきゃな」

そう言って立ち上がると、また斧を左手で握りしめる。

「そこにいたのか!!」

突然の後ろから声が聞こえて振り向く。
そこにはレイトが立っていた。

「レイトくん、元気になったのか!」

「おう!俺はもう元気だ」

にっこりと笑うレイトにニンバスは喜んだ。

「ここがよくわかったね」

「ルシィに教えてもらったんだ!」

レイトは、自信満々に答えると、すぐさま視線を薪割り台の方へ向ける。

「薪割りやってるなら、俺が手伝おうか!?」

すごく手伝いたそうにするレイトを見て、ニンバスは笑った。

「よし!じゃあレイトくんに頼む」

「ありがとう!」

レイトは走り寄って、片隅に積まれた薪を一本取り出すと、それを薪割り台に置いた。
ニンバスは、レイトに斧を渡す。

両手で斧を持ったレイトは空高く振り上げると、そのまま薪目掛けて振り下ろす。

斧は薪に刺さり、見事二つに裂くことができた。

「これでいいんだな!」

レイトが振り向き、ニンバスへ言う。

「うん、だけど…もう少し腰を落とした方がいいかもね」

「そうなのか!?」

そう言って再度レイトは薪を薪割り台の上に置いた。

再度薪を割る。

「次はいい感じだ!」

そう言うとレイトは嬉しそうにしていた。

それから少しの間、薪割りをしながらレイトとニンバスは過ごした。

あれから時間が経ち、太陽は沈む方向へと進路変えていた。
レイトはニンバスの横に座っている。

「ふぅ…薪割りも疲れるんだなぁ」

レイトがそう言うと、ニンバスは笑う。

「そうさ。何たって全身の力を使うからな」

「なるほどな」

レイトは体を倒して空を見上げていた。
少しの間黙って、平穏を堪能していると、ニンバスはレイトに向けて話をした。

「レイトくん。俺は君に感謝を伝えたい」

レイトは見上げる。
そこには真剣な表情のニンバスがいた。

「レイトくんたちが、この村に来て、ルシィも含めこの村を救ってくれた。それに加えて俺に勇気まで持たせてくれた。」

真剣な眼差しはレイトを見続ける。
それは本気の思いと言わんばかりだ。

「俺は魔物が怖くて、今まで村の人たちと一緒に戦いにいっても…手も足も出せなかった……それでも…レイトくんと出会って、一緒に戦う中で、あんな大きな魔物にさえ立ち向かえることができた」

ニンバスは自分の弱さを打ち明けて、レイトに真っ直ぐに言う。

「だから、ありがとう」

ニンバスは真剣な顔つきで、そう伝えるとレイトは黙って体を起こした。

そしてニンバスの方を向いて、口角を上げた。

「俺は自分のやりたいことをしただけだ!」

そう自信満々に答え、続ける。

「だけど、きっとあの魔物は、俺1人じゃ倒せなかった!」

大きな魔物と戦った時を思い出す。
あの時ニンバスがいたから、魔物の弱点に気づくこともできたし、スキも作ることができた。
それを思い返して、レイトはニンバスに言う。

「だから、あの時ニンバスが来てくれて、よかった!」

一間置いて、息を吸う。
そして息を吐くと同時にレイトは言う。

「ありがとう!ニンバス!」

そう言って、ニンバスに右手を差し出した。

それは握手の誘い。

ニンバスはその姿を見て笑った。

「やっぱり、レイトくんには勝てそうにないな」

そういって何も迷うことなく、レイトの右手を握りしめた。

「次また村に危機が訪れたら、今度は俺が助けてみせる、だからもっと強くなるよ!」

それを聞いてレイトは頷き、笑みを浮かべた。

2人で握りしめた硬い握手。
これはお互い信頼した友情である証でもあった。

握手を交わした後、レイトは立ち上がり、斧を持ち上げる。

「よし!今日はこの村のために頑張るぞ!」

それを聞いたニンバスも、やる気が満ち溢れてきた。

レイトとニンバスは、まだ残っている薪を割り始める。

そして。

あれから薪を割り続けて、すっかり夜が訪れていた。

太陽は完全に沈み、あたりは暗闇に包まれている。

空には半月の光のみが照らされていた。

レイトとニンバスはルシィたちの宿屋まで歩いている。

「少し遅れてしまった」

心配そうにするレイト。
それとは逆にニンバスは気にしていなかった。

「大丈夫さ、村の人たちはこれくらいで怒ったりしないよ」

優しく伝えるニンバスにレイトは頷いた。

宿屋が近づいてくる。
宿屋の隣に併設されているレストランの入り口から、灯りが漏れ出ているのがわかる。

それを見たレイトは、その入り口前まで走り出した。それを追うように、ニンバスも後をつけた。

入り口前に立つ2人、いざドアを開けようとすると、先に内側からドアが開いた。
そしてその先に立っていたのはルアルだ。

「あれ?」

ルアルは2人を見て、声を上げた。

「遅いじゃない!全然来ないから探しに行こうとしたわよ!」

レイトとニンバスは2人して申し訳なさそうに、頭を下げた。

「まあいいわ、早く中に入って」

そう中へと案内されると、そこには村の人々が集まっていた。

店内は火に灯された煌びやかな飾りが、綺麗に飾られている。

「うわぁ、綺麗だ!」

レイトは目を丸くしているとルアルが目の前で腕を組んで胸を張った。

「そりゃあ、私たちが今日のために飾ったんだから!」

煌びやかに光る飾り付けは、辺りを大きく照らしている。

この場には、大人も子供も含めた村民たちが、集まっている。

周りを見渡す。
そこには、テーブルと椅子が幾つにも用意され、丸いテーブルを囲むように座って話している者もいれば、立ち上がって話をしている者、もうお酒を飲んでいる者、子供たちが集まって遊んでいる者も、いろんな人々がそこにはいた。

みんな楽しそうにしている。

そんな雰囲気を見て、最初に来た時のことをレイトは思い出した。

あの時はルシィが気遣いながら、このレストランを煌びやかに見せていた。

だが今は多くの人たちが笑い楽しみながら、この場に溢れかえっている。

そんな場に見惚れいていると、ルシィが叫んだ。

「今回の主役の人が集まったわ!皆さん席について」

するとあたりは徐々に静まり返り、レイトはルアルに手を握られると引っ張るように案内する。

「こっちへ来て!ニンバスさんも!」

「ああ」

ニンバスは何気ない返事をすると、レイトと共に、この食事場の奥の壁際まで行く。

周りの人から、何やら熱い視線を感じる。

レイトは少し照れくさそうにしている。
それはルアルも同じだった。

連れられた先には、小さな壇上があり、ルシィが笑みを浮かべて待っている。

「さあ、並んで!」

ルシィの案内と共にレイト、ルアル、ニンバスの順に、壇上へ上がらせた。

村人みんながこちらを見ていた。

そしてルシィは口を開いた。

「それでは今回の主役の方たちが壇上に上がりました。村長さんいいですか?」

そういうと前の列にいた村長が手を挙げて、壇上の方に上がる。

(あ…この村で最初に会った人だ!)

レイトは、この人がルシィの宿を案内してくれたことを思い出していた。

すべてはあそこから始まったと思うと、感慨深くなる。

村長は壇上に立つと、まずは咳払いをし、喉を調整すると始まる。

「お集まりいただいてありがとう」

優しい口調で語りかけた。
村の人々も真剣に耳を傾けた。

「この村に化け物が現れて、みんな苦労していたじゃろう」

村の人々はそれに共感するように頷いていた。

「まずはご苦労じゃった。」

村長が頭を下げ、話を続けた。

「化け物たち現れ、幾度となく村を襲撃し、あらゆるものが壊され、失っていった…」

辛い現実を思い浮かべるように、静かに語る。

「そんな中でも、村をなんとか元気にしようと頑張ってくれた者、命をかけて戦い抜いてくれた者…そして残念ながら失ってしまった者、様々な人々がおった………だが…それでも解決することはできず、ゆくゆくは、この村の存亡がかかるほど厳しい状況が続いておった。」

そして一回息を吸い、吐く、そして壇上に上がった3人を見た。

「しかし…今、壇上に上がっているレイト、ルアルの2人の客人と、我が村民のニンバスが、この問題を解決してくれた」

みんなレイトたちを見ている。
ルアルとニンバスは少し照れくさそうにしていた。

「先日この3人が化け物の住処で、元凶と思われる化け物を倒した。すると他の化け物も同時に消えてしまったという。」

そう区切り、喉を調整しながら、村長は続けた。

「現状、あたりを探索しても化け物の気配はなく、やつらの住処だった洞窟でさえ、何も存在しない」

力強く言う村長に、真剣に村人たちも話を聞いていた。

「つまり、我々にとって化け物どもの脅威は失ったと考えても良い」

村民はそれに驚いていた。

「この3人に、改めて感謝を伝えよう。」

村長がレイトたちに振り向いて頭を下げた。

「ありがとう」

それを見てルアルは、小さく頷いた。

「今まで苦に耐えて大変な思いをしたもの、ご苦労じゃった。亡くなった者への弔いもあるが、この村を、また活気溢れた村へとしていくためにも、この場では楽しく会を開いてほしい」

そう言って村長は深く頭を下げた。
そして、背をお腰し、村民を見て言う。

「ワシの話は以上じゃ」

村長は、息をふぅと吐いて壇上を降りる。
その際に彼へ向けた拍手が寄せられていた。
村長は壇上から降りると、元いた席に着く。

ルシィはみんなに向けて言う。

「それではみなさん料理を用意しました。お酒もあります。辛いこと沢山あったと思いますが、この場だけでも元気にしてほしい。村長の言葉も忘れずに」

そして、ルシィはにっこりと笑う。

「では、祝葬会を始めましょう!」

そう言って、祝葬会が始まったのだ。


後1話で魔物退治編は終わります
最後まで頑張ります!

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