18.ニンバスの覚悟!

小説
主要な登場人物
レイト 
 雷を操れる少年
ルアル 
 魔法を使う魔術師の少女

リモク村の登場人物
ルシィ 
 リモク村の宿屋を営む女性。
スバン
 ルシィのお父さん。
ニンバス 
 リモク村の木こりをやっている男性。
 実はルシィの幼馴染

魔物
ゴブリン
 基本はレイトと同じくらいの小さい魔物。しかし力はものすごく強く、ただの大人でも引けを取らない。大きいサイズもおり、そちらは力があまりにも強く成人男性が立ち向かっても、すぐにやられる。

大きな魔物
 大きなゴブリンよりもはるかに大きい3メートルはある魔物。
見た目もゴブリンとは全く違う。お腹は大きく丸く、その中央には大きな口がついている。またお腹の上には小さい顔がある。手は太く地面につくまで長い。大きなゴブリンを片手で握り潰すことまでできてしまう。

前回のあらすじ
 レイトとニンバスは大きな魔物を倒すため作戦を実行。ニンバスは囮役として、大きな魔物の気を引くことに。囮役中、大きな魔物に食べられそうになるもなんとかレイトの雷の一撃が放たれた!

一撃を喰らった魔物は、よろめきながら後ろに倒れそうになる。

それに気づいたニンバスは、すぐさまレイトに向けて叫んだ。

「レイトくん!!魔物が後ろに倒れる!!早く退けるんだ!!」

しかしレイトの返事はなく、魔物は後ろへと倒れた。

「レイトくん!!」

ドスンと大きな音を立てる魔物の前で、ニンバスは叫んだ。だが返事がない。
そこで立ち上がって松明を片手に仰向けに倒れた魔物の右側からまわって背後へと歩く。

暗闇の中、辺りを照らしてみるも、レイトの姿はない。

ニンバスに不安が積もる。

レイトがこの魔物の下敷きになってしまっていたら、どうしよう…

そんなふうに思いながら、ひたすらに辺りを照らすと、何か輝くものが見えた。

それはレイトが持っていた剣。

(あっ!)

そこからすぐ隣を見ると、レイトはうつ伏せで倒れていた。

「レイトくん!大丈夫か!?」

ニンバスがレイトに聞くと、倒れたまま右腕をゆらゆらと上げて握った拳から親指を立てた。

そして顔を上げて、ニンバスを見て言う。

「やったぞ…!」

そう言って満面の笑みを浮かべるレイトに、ニンバスは、すごく安堵した。

その後レイトの隣に気が抜けたように座り込んだ。

「よかったよ、ほんとに」

そう言いながら、顔を俯かせると続けた。

「俺は魔物が怖くて戦えなかった。このまま何もできずに迷惑かけるんじゃないかとも思っていた。でもなんとか君たちの役に立ててよかった」

ニンバスは、今まで溜まっていた自身への鬱憤を吐き出した。
それを今レイトに聞かせるのもどうかとも思っていたが、抑えられなかった。

申し訳なさそうに、再度レイトの顔を見る。
そこにはなんとも思っていなさそうなレイトが、ニンバスに向けて笑っていた。

「全然いい!ありがとう!」

それを聞いたニンバスは、今までの思いが吹っ切れて笑顔を返した。そうして立ち上がると倒れたままのレイトに右手を差し出した。

「帰ろう。レイトくん」

「そうだな!」

レイトはニンバスの手を握り、そのまま立ち上がる。

しかし、地面が大きく揺れる。

「うわ!」

ニンバスもレイトも一瞬体勢を崩しそうになるが、なんとか耐える。

何が起きたかわからない。
二人は疑問に思っていたが、嫌な予感がしていた。

ニンバスは左手に持っていた松明の火を魔物の方へ向けると、そこには両手で地面を押して起きあがろうとする魔物の姿があった。

それを見て驚く。

「倒せてなかったのか…」

ニンバスは、唖然としながらつぶやいた。

魔物は大きな手を使って、体を起こすと、そのままお腹の大きな口から叫び声を上げた。

「グオオオオオオオオ!!」

あまりの大きさにレイトもニンバスも耳を塞いだ。

魔物は、頭を左右に振ると、明かりのあるレイトたちに気づく。

すると両手を地面について、体を持ち上げるとレイトたちの方へ体制を向ける。

そしてそのまま地面に巨体をのし上げる。

地面に到達した瞬間、大きな揺れが襲う。

「くっ!!」

レイトとニンバスは、ふらふらする体勢を正す。

「レイトくん、逃げよう!」

ニンバスが現在の状況の危険性を見て、レイトに言う。
しかしレイトは剣先を魔物に向けて、構え直していた。

「ニンバス、俺はここで戦う。先に行ってくれ」

レイトの返答にニンバスは、混乱していた。

「なぜだ!さっきの一撃で倒せないならもう無理だろ!」

そう続けるもレイトは首を振った。

「まだあと一回できる気がする!」

ニンバスは困惑していた。

どうすることがいいのかわからない。
ただあの轟音と共にレイトが放ったであろう強烈な一撃すらも耐えたこの魔物は、どうやっても俺たちじゃ倒せない!

ニンバスは、無理矢理でもレイトを連れて行こうと肩を掴もうとする。

しかし目の前の魔物が、地面に向かってお腹の口から吐瀉物を吐き出していた。

「グロロロロロロオオオオオオ」

それは赤紫色の吐瀉物であり、あたりを侵食するように広がっていく。

「うわっ!」

それに驚いたレイトとニンバスは、吐瀉物に当たらないように、そのまま後ろへ走って距離を取る。

「なんだ…これは…」

吐瀉物に当たらないように離れたニンバスたちは、1メートルほど先にあるそれを不思議そうに見ていた。

松明の灯りを向けると、小さい何かが動いている。

それをよく見てみると小さい手が蠢いていた。

レイトはその正体を見て唾を飲んだ。

吐瀉物からは溶けかけた手のひらサイズのゴブリンたちが、腕を伸ばしながらもがいてる姿が見える。

「うっ…!」

ニンバスは、この気持ちの悪い光景を見て、一瞬吐き気が襲う。

それをなんとか抑えるように口を手のひらで塞いでいた。

小さいゴブリンたちはニンバスたちの方へと体を這わせながら寄ってくる。
まるで一つの液状の化け物のように迫ってくる

ニンバスは慌てるように、レイトに言う。

「どうする!レイトくん」

それを聞いたレイトは黙っていた。

レイトの肩を掴み、諭すように揺らす。
それでも彼は動じず、そのまま小声でつぶやいた。

「やっぱり…」

何かを確信したかのように、そう呟くと頭上に剣を持ち上げる。

徐々に地を這うように寄ってくる小さいゴブリンの集団は、今すぐにレイトたちを捕まえようと手を伸ばす。

それを見たニンバスは恐怖で固まる。
そんな中でもレイトは剣に雷を宿すと、そのまま小さなゴブリンへ振り下ろした。

バチバチ!

雷の剣が振り下ろされると小さな吐瀉物内にいるゴブリンたちへと雷が伝染していく。

「ギャアアア」

無数の悲鳴と共に燃え出した。
その燃えた火は、大きな魔物の元まで、吐瀉物が広がった範囲まで燃え広がる。

あたりは明るくなり始め、前方にいた大きな魔物の奇妙な姿がはっきり映し出された。

火をモノともせず、大きな魔物は、お腹の上にある小さい顔でこちらを睨みつける。

すると顔についている小さなほうの口で叫び出した。

「グガアアアアアア」

魔物の叫び声と悲鳴が入り混じり、ニンバスは精神を蝕まれるような不快感募る。

それでも冷静さを取り戻して、今の状況を見る。
燃え広がったものを見てニンバスは確信した。

「…この吐瀉物は油性なのか…!」

その結果レイトの雷で引火したと考えるニンバスは、改めて大きな魔物を見た。

そこに何か弱点があるのではないかと一心で見つめるも、燃える火をものともせずにレイトたちの方へ歩き出した。

「くっ…火は効いていないのか」

悠々と近づく大きな魔物は、ジロリとこちらを見ている。

「レイトくん早く逃げよう」

そう伝えると、レイトは首を横に振った。

「ダメだ、やっぱりこいつを倒さなきゃ、この村の問題は解決しない!」

レイトは剣を構え直す。
それを見たニンバスはレイトの肩を右手で掴む。

「レイトくん!さっきの雷の攻撃もこの火だって効いてないんだ!俺たちでは、どうすることもできないだろ!?」

そう言われたレイトはニンバスの方へ振り向き、大きな口がついた魔物のお腹を指さした。

「ニンバスも見ただろ!きっとあの口からゴブリンが生まれてるんだ!!あいつをどうにかしないと、この村は何も解決しない!!」

そう言ってニンバスの手を振り解くと、剣を改めて握り直した。

言うことを聞かないレイトに対して、ニンバスはどうしたらいいか悩んでいた。

(たしかに、あいつを倒さなきゃ…この村は平和にならないけど…)

どう考えても今の自分たちでは敵う相手じゃない。

それでもレイトの諦めない頑固さには驚かされるものだった。

「レイトくん…」

そう呟いて、魔物を見た。
小さい顔がついていながら丸く太ったお腹には大きな口がついている。

今まで見たことのない不気味で恐怖を駆り立てる魔物の姿は、ニンバスにとって震えるほど恐ろしかった。

(…あの口からゴブリンが生まれているんだ)

燃えさかる火の中で閉じた大きな口を見て思う。

あいつさえ倒せば、あの口からゴブリンなんか生まれずにこの村は平和になるのに…!

ニンバスは悔しくなって顔を歪めた。

(俺だって…!!)

気持ちはレイトと同じだった。
村を平和にするためにこの魔物を倒すことを諦めたくなかった。

だが、どう考えても勝算がない。

そんな中、魔物の姿を見てふと何かを思いつく。

「燃える吐瀉物…あの時…」

そう1人で呟く。
頭の中ではレイトの一撃を放つために魔物の囮になった時を思い出した。

(あの時…開いた大きな口を間近にして必死に松明を近づけると、魔物が口を閉じる仕草をしていた……)

その姿を思い出してニンバスは閃く。

「そうか…!!レイトくん!!あの化け物の弱点がわかったかもしれない…!!」

レイトは肩をぴくっと震わせて、ニンバスの方に振り向く。

「ほんとうか!!」

驚くレイト、それに続けてニンバスは指を刺す。

「やつの吐瀉物だ!これが燃えるってことは、あの魔物の口の中も燃えるかもしれない」

レイトはなるほどっと手を打った。

「証拠に火の中では、あの大きな口は閉じたままだ」

火の中でも、こちらへと歩みよる魔物を2人は見る。
確かにお腹にある大きな口は閉じたままだ。

「でも、どうやってあいつ口を開けるんだ…!」

レイトがそういうと、ニンバスも悩んでいた。
ただ一つ思いつくことがあった。

「あいつをまずあの火の中から出す必要がある」

ニンバスは何かを決心したかのように一呼吸する。

「作戦がある!今度は俺からの頼みだが、いいか?」

それに対してレイトは答えた。

「あたりまえだ!!」

ニヤリと笑ってレイトは言った。
それに応えるようにニンバスは頷いた。

そしてニンバスは、レイトに作戦を簡単に話した。

作戦は簡単だった。

まず魔物がこちらに向けて歩き始めているのを利用して、火のないところまで誘き寄せる。

次にレイトとニンバスは二手に分かれて、レイトは自身の雷で魔物の気を寄せる。

そうしてニンバスから気を逸らし、レイトが魔物を挑発することで、大きな口を開けさせる。

その隙にニンバスが持っている松明を口の中へと放り込む。

この作戦を実施するためにニンバスは、レイトに一つお願いをする。

「この作戦がうまく行くかはわからない…だけど、レイトくん…次は君に囮役をやってもらってもいいかい?」

ほんとはニンバス自身が囮役をやりたかった。
しかしレイトほど機敏に動くことができない以上、任せる他なかった。

ニンバスは申し訳なさそうにする。

だが、レイトは不満の一つも言わずただ一言。

「まかせろ!!ニンバス!」

レイトは剣を再度強く握り直した。

2人で大きな魔物が歩み寄るのを見て、後ろ向きで徐々に距離をとる。

そうしてレイトは以前よりも強く自身の剣に雷を宿す。
するとバチバチと音を立てながら発行し、辺りを目立たせる。

隣でニンバスも松明を振りながら、魔物を誘き寄せる。

(もう…背は向けない!!…戦ってやる!)

ニンバスは強く決心をする。

2人が持った灯火は、希望への兆しとなるか…おそらく最後の覚悟を決める。

その頃、ルアルとルシィは出口へと進み続けていた。


新年になってから2回目の投稿。

魔物退治編、ラストパートになります。

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