8.襲来

小説

「はぁ…?」

なんだか納得いかないレイトは、毛布にくるまるルアルを見て自分のベットに座り込んだ。

(ルアルの気持ちがわからない…)

そう思いながら、レイトもベットで横になった

が眠ることが、できずに考え込んでいた。

(どうしてなんだ…便利な力があるっていうのに…)

プライドのために見捨てる判断はレイトにとって理解し難いものだった。

なぜなら人の幸せの方がより尊いものだと感じているからだ。

思えば思うほど悩み、その日は夜遅くまで寝付くことができなかった。

レイトは悩みながらも気づけば眠りにつき、そして時は朝になった。

レイトはうっすらと聞こえる騒々しい音から、目を覚ました。

(うぅ…騒がしい)

寝ぼけて耳に入る言葉がよく聞こえなかったが、徐々にその言葉がしっかりと聞こえてくる。

それは……悲鳴や泣き声だ!

レイトは目を覚まし起き上がって、一心不乱に窓へと向かった。

そこから映る光景には、辺りが荒らされたや建物が見える。

「何があったんだ…」

そう呟くレイトに、壁に寄りかかって立っていたルアルが話し出す。

「魔物が襲いにきたのよ」

レイトはルアルを見た。

「ルアル!襲ってきてたのを見たのか!?」

それに対して答えた。

「私が起きた時には、もうこのありさまだったわ」

とても冷徹に答えるルアルにレイトは怒りが湧いてきた。
しかしそんな場合じゃないと考え、剣を背負い部屋の出口に向かって飛び出した。

下の階に降り、宿の受付場まで来るが内装はとくに荒れているわけではなかった。

「ルシィ!!大丈夫か!?」

レイトが大声で言うが返事はない。

辺りを見合わせても人がいる気配がない。

そこでレイトは外に出た。

外に出ると改めて辺りが荒らされているのがわかる。

また村の人々が叫びながら、立ち尽くしている人、走り回って手助けをしてる人達と様々な姿が見える。

レイトは宿の出口付近の壁に、背中を預けて座り込んでいる男性に気づいた。

(ルシィの父ちゃんだ!)

何やら傷の応急処置はされているようだったが意識がないように見える。

「大丈夫か!?」

そう言ってレイトは駆け寄る。

「…君は…」

ルシィの父親は、微かな声で答えた。

「俺はレイトだ!」

そう言うと、レイトは自分よりも大きいルシィの父親を背負った。その時、少し驚き、申し訳なさそうにしていた。

「申し訳ない……」

そう一言謝ったがレイトは答える。

「気にするな!どこに連れて行けばいい?」

「ああ…受付の奥に…….部屋がある…」

「わかった」

そう言うとレイトは案内の通りに、宿屋受付場の奥にある部屋に向かった。

この部屋は宿とは違い、普段ルシィたちが生活にしようしている部屋だった。

その部屋の隅に木製のベッドがあり、ここで昨日ルシィが看病していたのを察したレイトは、ここで寝かせることに決めた。

「待ってろ、今安静にする…」

そうレイトが言うと、ルシィの父親の返事がない。

それに対しレイトは嫌な予感がする。

「おい!…大丈夫か!?」

早急にベッドに寝かせた。
しかしレイトはどうしたらいいかわからず、あたふたしている。

(どうしたら…どうしたら!いいんだ!?)

何をしたら良いかわからないレイトは声を一生懸命声かけることにした。

「おい!生きろ!生きろ!」

それでも意識が戻らないのを見てレイトは焦る。

どうしようもなく自分の無力さに、涙が込み上げてくる。

「くっ…なぜだ……!」

ただ拳を握りしめているだけだった。
すると、誰かがレイトの肩を掴んだ。

「どいて!」

そう言ってレイトは、右側に押されてそのまま尻餅をついた。

そこに現れたのは

「ル…ルアル…!!」

レイトは涙によって潤った目でルアルを見る。

「いいからあんたはじっとしてて」

ルアルは冷静に答えるがレイトは何かと焦っている。

「でも…でも……」

レイトはずっとあたふたしている。
そんな姿を無視してルアルは、ルシィの父親の動脈や呼吸を確認した。

「なによ!別に問題ないじゃない」

「そうなのか…!!」

少し安堵したレイトは気力を失うように肩を落とした。

「ただ傷は結構深いようね…」

ルシィの父親は、応急処置がなされているものの、巻かれている包帯には血が滲み出ていた。

「癒しの魔法を使うわ」

そう言って腕にあった傷に手をかざす。
そして目を瞑り少し黙ると呪文を唱える。

「癒しの魔よ、我が手に、その力を示せ……サーナ」

かざした手から青色の光を放つ。
するとみるみると傷が癒えていく。

「はぁ…」

ルアルが息を吐いた。
レイトはルアルを見ると少し疲れているように見える。

「次行くわ」

そう言って傷のある部分に魔法を行っていた。
そして全ての傷に対して癒しの魔法による施しを行ったルアルは、額に汗をかいていた。

「大丈夫か?ルアル」

レイトがそう言うとルアルは額の汗をぬぐう。

「ええ…大丈夫よ…私…癒しの魔法が……1番苦手なのよ……」

息切れが続き、いかにも大丈夫そうに見えないのだが、レイトはルアルを見て少し嬉しい気持ちになった。

「ありがとうな!ルアル!」

そう言うとルアルは疲れていながら照れくさそうに言い返した。

「…別に…あんたが…うるさかったから……鬱陶しかったのよ…!」

レイトはあれだけ魔術師として、この村に関与はできないと言っていたルアルが、怪我人を治してくれたことにすごく嬉しく感じていた。

ただ魔法の使用に相当無理してるのはわかった。そこでレイトは少し黙ることにした。

ルシィの父親の怪我の具合を見ると、完全に完治はしてないものの最初よりも断然良くなっていた。

(魔法はやっぱりすごい……)

レイトはルアルを見てそう関心していると、ルシィの父親が目を覚まし始めた。

「うぅ…ここは……」

うっすらと目を開け呟いた。
気絶する前の前後の記憶がないように見える。

「ここはご自宅のベットですよ」

そうルアルが答えた。

少し驚いている様子、そしてルシィの父親は辺りを見廻し、自分の傷を見て、記憶が徐々に戻ってきている。

「ルシィの父ちゃん大丈夫か?」

レイトは、心配するとルアルは即座に答えた。

「傷の具合から今は安静にしていれば必ず大丈夫よ!」

そう答えると、悲壮感のある顔でルシィの父親が口を開いた。

「そうか…私はバケモノどもに傷つけられてしまったのか…」

男はそう言った。それに対してレイトは答えた。

「宿の扉の前で倒れていたぞ」

すると男は、頷き傷の手当てを見る。

「うむ、この傷の手当ては君たちが…?」

その疑問にレイトは答えた。

「見かけた時から傷は手当てされてて、ここまで運んだんだ!それでルア…」

と言いかけた途端にルアルは、レイトの顔を手のひらで叩いた。

「ぐぎゃあ!」

レイトはそのまま後ろに倒れた。

「…今何か言おうとしていたが…」

「いいんです…気にしないでください…」

ルアルがそう答える、その中でレイトは自分の顔を押さえて、ルアルを睨む。

「ぐぐ、なんで叩いたんだ…」

そんなレイトをルアルは無視し、一言。

「その傷は村の人が手当したと思います…」

ルシィの父親はルアルとレイトのやりとりを見て、若干困った表情をする。
そこで改めて気を取り直し、口を開いた。

「すまなかったな…君たちはお客さんだろう…迷惑をかけた」

そう言って、その場で頭を下げた。

「いえいえ、そんなことないですよ」

ルアルはそう答えたが、男の顔は落胆していた。

かなりのショックがあるようだった。

ルアルはそれを見て言葉を選ぼうと必死に考えようとすると、先にレイトが口を開いた。

「そんな気にするな!ここはルシィのおかげで快適だったぞ!」

レイトは明るく答えた。

ルアルは、レイトの返答とも思えない発言に励ましがあったかは悩むところだったが、この明るさには少し安堵した。

「娘が世話になったな…」

そう男が言うと、ルアルとレイトは顔を横に振った。それを見て男は少し笑みを浮かべた。

「そういえば、自己紹介がまだだったな。私の名前はスバンだ」

男は自己紹介を始め、頭を下げる。
それに対してレイトも自己紹介をする。

「ルシィの父ちゃんはスバンって言うんだな!俺はレイトだ!ルシィには美味しい飯とか、いろいろしてもらった!」

「レイト!呼び捨てしないの!」

パシっとレイトの頭を叩き、続けてルアルも自己紹介をする。

「私もルシィさんにはお世話になりました。ルアルと言います。スバンさん」

と二人でお辞儀をした。

そんな2人のやりとりを見て、スバンは一言言う。

「仲がいいんだね」

そういうとレイトは頷くも、ルアルは顔を横に振って答えた。

「いえ!別に仲なんてよくないです!」

先日あった言い合いを引きずってか、ルアルは否定する。

レイトはそれに目を丸くし、「なんで」と言わんばかりにルアルを見つめていたが、ルアルはちっともレイトの顔見ようとせず、鼻を鳴らしてそっぽを向いている。

スバンはそれを見て、なんだか姉弟のように感じ、微笑ましい気持ちになった。

「君たち、2人で旅をしているのか?」

スバンがそう聞くと、レイトが答える。

「そうだ!今は2人で旅をしてる!」

それに付け足すようにルアルも答える。

「ええ、最初は別々に旅をしていたんですけど、たまたま出会って、一緒に旅をしているんです」

こう説明した後にレイトもまた話し出した。

「そう!俺達は、王都に向かうために旅をしているんだ!」

するとスバンは、驚いていた。

「王都へ向かっているのか!なかなか遠い道のりだな…その旅の途中にこの村に訪れてくれたのか」

そう言われてレイトもルアルも頷いた。

「この村には、どうして訪れたんだ?」

レイトはそれに対して

「道に迷っていて、たまたま見つけたんだ」

と言うと、スバンは笑っていた。
しかし、何やら疑問に思ったのか、また一つ質問をした。

「旅の道中でバケモノに襲われることはなかったのか?」

そういわれるとルアルが答える。

「なかったです。正直この村に来てから気づきました。」

それに対してスバンは驚きの顔みせた。

「それは幸運だったな。神アベールの加護がついていたのかもしれないな」

レイトは知らない言葉を聞いて、聞き返した。

「神アベール?」

レイトが首を傾げながらそう呟くと、ルアルが言った。

「あんた知らないの?」

ルアルにそう言われ、レイトは頭を悩ませた。

「うーん、聞いたことあるようなないような」

そんなレイトにルアルは呆れていた。

「はあ…あんたってほんと何も知らないのね!」

ルアルは人差し指を立てて、今にも説明しようとしたのを、お構いなしにレイトはスバンへと質問した。

「それより、いつからこの村に化け物が現れたんだ?」

自分の説明を披露できず、ルアルは少ししょんぼりしていたが、それを知る由もなくレイトはスバンの話に耳を傾けた。

スバンは答えた。

「数ヶ月前からだ」

それを聞いて、レイトは少し驚く。

「そうなのか…」

レイトは神妙な顔つきで、そういうとスバンは頷いた。

「一応バケモノどもの退治を、王都に依頼してはいるものの一向に出向いてくる様子がない…」

スバンは、奥歯を噛み締めていた。
王都に怒りがある様子だ。
しかしその感情を表に出そうとはしていなかった。しても意味がないことを知っているからだ。

それに気づいたルアルは、下を向いた。
心の中で今朝の自分の行動を見つめていたのだ。

(私は…どうしたら…)

ルアルは自分との葛藤に悩んでいた。
魔法使いとしてのルールを守り、こちらの困ってる人々を見過ごすのか。

今朝人々の悲痛の叫び声を聞き、冷徹を装っているものの、結局絶えず飛び出してスバンを助けてしまった。

(……)

何も答えがでずに、結局心の中で沈黙してしまった。

なんだか周りの雰囲気は悲しさに満ちていた。
それに気づいたレイトは、悲しさを打破するためにスバンに新しい話題を出した。

「この村は魔物が出る前は、どんな村だったんだ?」

そういうとスバンは、少し考えて答えた。

「この村は元々旅人がよく泊まり、様々な人々で溢れる賑やかな村だった」

レイトは、頷いた。

「しかしバケモノが現れて、危険な噂が立っていこう。旅人の足が目一杯に減ってしまったんだ…」

悲しそうにするスバン。
それを聞いてルアルも暗い顔になっていた。

それに気づいたのかスバンは、話題を変えるように、昔の思い出を語り出した。

「元々私と妻は、宿をやっていてね……ルシィが生まれた時に妻が亡くなってしまったが…」

そういうとスバンは、辛そうな顔をしている。
しかし、辛そうな顔を徐々に明るくなっていた。

「そんな中でも、妻の代わりのようにルシィは、一生懸命に働いてくれた…おかげで、今ではこの村で、皆が認める一番の宿だ。」

スバンは、新たな希望を得たかのように、微笑んだ。

スバンにとって大切で自慢の娘だということが、身に染みるほど伝わってくる。
それには、レイトもルアルも大きく頷いていた。

「バケモノが増え、噂が広まりこの村も活気がなくなってしまった。それでもルシィはみんなを気遣って明るい姿を見せて頑張ってくれていたよ。」

それを聞いて、レイトもルアルも昨日のことを思い出していた。

閑散としている宿を飾り付けて明るく楽しそうに見せていたり、美味しいご飯作ってくれたりと、気遣ってくれているのを思い出した。

このおかげもあり、何も不満もなく過ごせたのは、ルシィが頑張ってくれたおかげだったんだろう。

ここにきて、楽しいと思えたのはルシィがいたからなのは納得なことであった。

ルアルがふと疑問に思って、質問をする。

「そういえば…ルシィさんはどこに?」

ルアルが言うと丁度、ドアを大きく開ける音と同時に男の声が聞こえた。

「スバンさん…!大変だ!」

みんな驚いたが、スバンは冷静に声発した。

「私は奥の部屋にいる。どうした?」

そう言うと若い青年が勢いよく部屋に入ってきた。焦った顔についついスバンは尋ねる。

「どうした…?」

すると、すぐさま青年は答えた。

「ルシィがバケモノに攫われた!!」



おいおい、新投稿から1年以上経ってんじゃねーか!流石に内容忘れたやつもそもそも知らないやつも読み返してくれよな!
これから毎週投稿してくからよろしく頼むよ!

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