第7話 魔術師か後悔か

小説

7.魔術師か後悔か

「お父さん!」

そう言ってルシィが男を抱き寄せた。
レイトとルアルは座りながら唖然としていた。

「ルシィすまん……」

男は小声で呟くのみだった。
ルシィは男の肩を担いで急ぐように宿屋に繋がる入り口に向かった。

レイトも立ち上がり、駆け寄ろうとした。

「ルシィ!」

レイトがそう言うとルシィが振り向いた。

「大丈夫よ…」

そう言われ一旦レイトは歩みをやめて、立ち止まった。

しかし、明らかに辛そうな姿しているルシィを見て、駆け寄ろうとした。
その時、ルアルがレイトの肩を掴んだ。

「私たちが行く必要はないわ…」

そう小さい声でレイトにささやいた。

しかしレイトは、納得できずに肩に置いたルアルの手を振り解いた。

「なんでだよ!」

振り向きルアルを見る。
その一瞬レイトの周りを小さい雷がジリジリと光った。
それにビクともせずルアルは自分より背の低いレイトを見下ろし、レイトは少し見上げて睨む。

ルアルは、どこか冷めたような顔でレイトに言った。

「私たちは、この村の事情に首を突っ込む必要はない」

その言葉を聞いてレイトは、腹が立ち拳を強く握りしめた。

「…ルアル!!俺たちはルシィに良いこと沢山してもらった!」

レイトの必死の言葉にルアルは何も答えない
ただ冷めた顔の中にどこかやりきれないと言わんばかりの顔が見える。
しかしそれでもレイトはルアルを睨む。

「それなのになんでルアルは…!」

言葉の途中でルシィは声を上げた。

「貴方達は、お客さんなんだから今は料理を楽しんで!!…心配かけてごめんなさい…」

「でも…!」

レイトがルシィの方へ振り向いた。
そこには受付場所につながる扉の前で、父親の肩を担いだルシィが立っていた。

「喧嘩はダメ!食べ終わった食器は、置いといたままでいいからね」

ルシィは笑顔を作る、ただ辛そうな思いがあるのは、誰が見ても分かりきったことだ。

父を担いだルシィは扉を開け出ていった。

レイトは、黙って拳を握り続けた。

「……料理…いただきましょ…」

ルアルが、そう言って席についた。

納得しきれないレイトは、立ち尽くしていた。

その後、レイトは、ルシィの思いのためにも席に着き、ルアルと淡々と料理を食べ続けた。

この冷ややかな空気の中でも食べ続けたのは、ルシィへの感謝の気持ちだろう。

食べ終わったルアルは、先に席に達自分の部屋に戻っていった。レイトは、一人沈黙の中ルアルがなぜ否定的な事を言ったのか考えていた。

しかし何も思いつかないレイトは食事を続けることにした。

それから少し時が経った。

食事を終えたレイトは、部屋に戻り自分のベットに横たわっていた。

ルアルは自分のベットに座り、普段のツインテールを解いてストレートの桃色髪をくしでとかしていた。

沈黙の中ピリピリとする空気が流れている。その中でルアルは、髪をくしでとき終わると立ち上がる。

そして月の光が差す窓へ向かうと、そのまま月を眺めていた。半月でもよく光が入射し、ルアルの蒼目を輝かしていた。

レイトをそれを眺めていた。

今は目が綺麗と思う気持ちよりも、ルアルのどこか悲壮感のある顔を不思議に思う。

その顔にどんな理由があるのかわからない。そのためレイトは聞いてみることにした。

「……なあルアル…」

するとルアルがピクっと少し驚いたように身震いして、レイトに振り向いた。

「なによ……」

少し睨むような顔で見る。
レイトはそれに対して率直に質問した。

「なんで、あの時助けないんだよ」

そう言ってルアルを見つめる。
黙っている姿を見て、レイトは話を続けた。

「俺は、じいちゃんに良いことしろって言われて育った…だからわかんねえ」

すると、ルアルは口を開く。

「…簡単よ、私たちの目標は王都に行くこと、そのために危ないことをするのは得策じゃないでしょ」

そういうとレイトは納得できずに何か言おうとしたが、ルアルは話を続けた。

「それに…」

一呼吸置いてルアルは、

「魔術師っていうのは、この世界で簡単に手助けしてはいけないのよ」

レイトは黙った。

「なんでだよ…」

するとルアルは自分のベットに戻りながら話した。

「こっちの世界はね、そもそも魔法が珍しいのよ」

レイトは不思議そう首を傾げた。

「レイトはきっと知らないから教えてあげる」

そう言ってルアルは、自分のベットに座った。

「私たちが今いる世界は、騎士世界。そして私が来たのは魔法世界」

レイトの真剣に聞く顔見て、話を続ける。

「魔術師にとってこの2つの世界っていうのは大きな差があるの…それは魔力の供給の安定さ…騎士世界はそれが不安定で魔法世界の人から嫌われている」

レイトは黙りながらもルアルの耳に傾けた。

「理由の一つは体の仕組みが違うこと。私たちの生命力は、この世界の人達より魔力を多く必要とする」

ルアルは真剣に語る。

「だからこそ魔術師が好き好んで、この世界に来ることはない…だからこそ、この世界では魔術がとても強力な存在になる」

「それはつまりこの世界にとって魔術師などの存在は、崇められる存在になってしまう」

「それを悪行に使おうとする者が現れるかもしれない」

「だからこそルールとして私たちが手を出すのはやめようってことになってるのよ」

レイトは、それ聞いて頷いた。

「事情は分かった」

レイトがそういうとルアルは驚いた顔をして言った。

「本当にわかったの!?」

レイトはルアルから目線を逸らした。

「は、半分くらいわ……」

するとルアルは、少し笑みを浮かべて鼻で笑った。

「どうせ…そんなことだと思ってた…レイトってバカだもん」

ルアルは細目にして嘲笑うかのようにレイトを見る。
それに対してレイトは怒る。

「…そんなのしょうがないだろ!」

それでもルアルは嘲笑うのやめず、レイトはわちゃわちゃ怒っているが、それはまるでルアルに弄ばれるレイトの姿が見える。

少し経った後レイトは、気を取り直してルアルに話をした。

「…ただ一つわかった…助けちゃいけないなんてのは、ただのルールなんだろ」

ルアルは先ほどよりも少し真剣な顔に戻ってレイトを睨む。

「なによ、守るためにあるべきものでしょ」

そういうとレイトは立ち上がり声を上げた。

「俺はそう思わない!!人のために良いことするのに、時にはルールを破ったっていいと思う」

ルアルは、呆れた顔をした。

「それって周りを考えない自分勝手な考えよ!」

ルアルも少し声荒げた。それでもレイトは一歩も引かずに話し続けた。

「確かに自分勝手だ、それでも後悔するよりマシだ!」

レイトはキッパリと答えた。ルアルはそれに少し戸惑いを感じている。

「なによそれ…」

そう言って、ルアル黙り込んでしまった。

「ルアルは本当に後悔しないのか…?」

その問いルアルは少し黙ってから口を開いた。

「……そんなの私は清く正しい魔術師なんだからしないわよ…」

ルアルは、視線をレイトからずらして自信なさそうに答える。
それにレイトが反論した。

「じゃああの時…なんで悲しそうな顔してたんだよ」

「っ!…」

不意につかれたレイトのその言葉にルアルは声をつまらせた。

レイトは、ルシィと楽しく会話していたルアルもルシィが辛そうにしてる時、悲しそうな顔になってたルアルも見ている。

そんなルアルが後悔してないはずがない
レイトはそう確信していた。

「ルアル!本当の後悔は、起きる前より起きた後に来るんだぞ」

ルアルは下を見るように顔を伏せていた。ルアルの桃色の髪がサラサラと前に流れ込む。

その間レイトにとってルアルの表情は分からなかった。ただ黙り込んでしまった後に、ルアルは小さい声で話し出した。

「バカのくせに…なんなよ………」

レイトはそれに対して答えた。

「俺だって、じいちゃんが死んだ後、一人で生きてきたんだ…」

レイトは一呼吸置いて、話を続ける。

「その間に色々後悔したこともあった…そのほとんどが何か出来たはずなのに、何も出来なかった時だ」

「だからこそ本当の後悔をする前に、俺は出来ることをしたい」

ルアルはうつむきながらただ黙る。

「その方法が正しくなくても…」

そう言ってレイトは、ルアルに右手を差し出した。

「だから後悔する前に…助けよう」

そういうとルアルは少し黙った。
少しの沈黙がありルアルも悩んでいるんじゃないかとレイトは思った。

しかしそれもつかの間、ルアルは鼻で笑って、差し出した右手を払い除けた。

レイトは少し驚いて一歩後退りした。

「それでお店を壊して良いわけじゃないでしょ」

これはレイトとルアルの出会いの時、レイトが盗賊を退ける過程で店を壊したことである。

「う…」

レイトはまたさらに一歩後退りぞけた。
確かに、良いことする過程で迷惑かけるのは良くない。
それについてレイトは何も答えられず黙る。
するとルアルが口を開いた。

「あんたは本当バカだね」

顔を上げたルアルはニヤニヤした表情を見せた。

「う、うるさい!」

レイトは少し怒り気味に答えたが、その反応を楽しむようにルアルは嘲笑う。
なんだか先程の冷たい空気が嘘のように、ルアルは明るい。

そしてルアルは少しの間、嘲笑うとそれをやめてレイトに言い放った。

「確かにレイトの言いたいことはわかったわ」

そういうとレイトは少し嬉しそう目を輝かす。

「もしかして…ルアル……」

しかしルアルはその嬉しそうな姿を無視して話しを続けた。

「ただ私は魔術師、そのプライドが私にはあるの」

そう言ってルアルは自分の胸に手を当てた。

「だからレイトの言うことは聞かない!」

納得できるはずもなくレイトがルアルに問い出す。

「ッ…!なんでだよルアル!」

その問いにルアルは、簡単に返した。

「言った通りよ、もういいじゃない!!」

そう言われてレイトは、頭を抱える。

「うう、わかんねえ…わかんねえよ!」

納得できないレイトは、ウダウダと小言を言い始めそうになる前に、ルアルが口元に人差し指を置きレイトに静かにするよう手振りをした。

「うるさい!もう寝る!!」

そういってルアルは自信のベットに横になって毛布を顔までかぶった。

「はぁ…?」

レイトは、なんだか納得いかないまま毛布にくるまるルアルを見た。

(わかんねえ…)

自分の言った事が、ルアルに何か響いたのかもわからないまま、そのうちレイトも自分のベットに横になった。


ついに、お久しぶりの投稿!!そして最新話!!
なんと前回投稿から約7ヶ月くらい経ってますが、エタらずに最新話投稿できました!!
もう本気なんでね、これから毎週1話以上投稿することを目標に頑張ります。
今回は久しぶりということで、なんといつも1話2000文字のところ4000文字書きました!出血大量サービスってやつだい

コメント

  1. オプチャ作れ、今すぐ作れ、迅速に作れ

  2. (わかんねえ・・・)
    そもそも何故、小説を書き始めたのだろうか。
    無意味な料理配信に、無価値なエジプト旅行。
    先の見えない将来に怯えながら、島崎はダンボールに滑り込んだ。

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